SIT (V-FET) 2SJ20A-2SK70A

パワーアンプ兼パワーIVC






・オーディオ自作賛歌さんのサイトに、SIT NEC製2SK70/2SJ20の特性とそのSPICEモデルが紹介されている。

http://ganbatetz.blogspot.com/2016/06/sitnecsk702sj20.html(近ごろ消滅してしまったよう。`残念。)

      2SK70    2SJ20
−−−−−−−−−−−−−−−−
Vgdo    100V   −100V
Vgso    -40V      40V
Id max   10A     −10A
Pd     100W     100W
Tj      150℃     150℃
μ        4        4
Rd       6Ω      10Ω
Cis     430pF    710pF


・ちなみに2SK60はこう。

      2SK60
−−−−−−−−−
Vgdo    170V  
Vgso    -30V  
Id max    5A  
Pd      63W  
Tj      120℃  
μ        4   
Rd       16Ω  
Cis     190pF 



・早速そのSPICEモデルで2SK70の静特性を観る。


・素晴らしい。


・上の特性図とほぼ一致。



・2SJ20については、電極間容量を除いてこの2SK70のモデルの極性のみを反転したものとなっているので、LTSpiceでの静特性図は極性以外はこれと同じ。


・現実にはちょっと違うはずだが、子細なこと。

・これは遊んでみたくなるね。

・45年前にワープ。

・1973年から1976年ごろ、SONY、YAMAHA、NEC、日立でV−FET(縦型FET、SIT)素子が製品化され、SONY、NECからは一般にも提供されるようになり、メーカーからはV−FET(縦型FET、SIT)を起用したアンプも発売され、無線と実験誌でも自作記事が多数掲載された。

・例えば1975年8月号の無線と実験誌を見ると、金田先生の終段コンプリメンタリープッシュプルソースフォロアV-FET AB級DCパワーアンプ、柴崎先生の終段コンプリメンタリープッシュプルソース接地V−FET A級 DCパワーアンプ、寺田先生の終段コンプリメンタリープッシュプルソースフォロアV-FET A級DCパワーアンプ、そして落合先生の終段コンプリメンタリープッシュプルソースフォロアV−FET AB級DCパワーアンプの製作記事が載っている。

・そのうち、落合先生のアンプがNECの2SK70、2SJ20使用で、他の先生はSONYの2SK60、2SJ18使用。

・その頃のそれらの先生方の作例で、完全対称型を除いてSIT(V-FET)のドライブ法はほぼ網羅されている。し、完全対称型も、当時は完全対称型とは呼ばれていないが、YAMAHAのB−1という製品のアンプ回路が要は完全対称型であり、当時の無線と実験誌(1975.2)にその回路図が載っている。


・と、それらも参考に、色々考えてこんな感じ。

 
・完全対称型は2SK60を起用したV−FET(SIT)完全対称型パワーアンプ兼パワーIVCがある。ので、ここは普通にコンプリメンタリープッシュプルソースフォロア。

・終段はパラプッシュにし、プッシュプルエミッタフォロアでドライブする。FETなので電流負荷はないものの、2SK60に比すと入力容量等が大分大きいしパラで倍増するので、その充放電のため結局電流供給能力が必要かと。

・終段SITには1個当たり200mA、パラで400mA程度のアイドリング電流を流す。シミュレーション回路でも400mA程度のアイドリング電流となっている。そうすると8Ω負荷で2.5W、4Ω負荷では1.25WまではA級、それ以上でB級のAB級動作になる。

・電圧ゲインを稼ぐのはGOA的2段差動アンプ。



・で、
そのゲイン-周波数特性。

・負荷を4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、100kΩ(負荷オープン相当)としたパラメトリック解析だが、赤のオープンゲインは66dB程度、緑のクローズドゲインは26.8dB、青のループゲインは39dB程度。

・良さ気。



・パワーIVC動作時のゲイン-周波数特性は、これまでの経験からこれと同じと考えられるので、ミドルブルック法による測定は省略。
1.5Vp−p10kHz正弦波を入力し、各部の動作を観る。



・一番下が出力電位と終段2SJ20と2SK70のゲート電位、そしてそれぞれのパラのドレイン電流値。



・電圧推移と電流推移が重なって見にくいが、プラス側の出力電位のピークではV(U1)=(U2とU3のゲート電位)が出力電位をやや上回り、マイナスのピークではV(U2)=(U1とU4のゲート電位)が出力電位をマイナス側にやや上回っている。ソース抵抗0.47Ωの電圧降下分ゲート電位は出力電位以上になるのは理屈だが、出力電圧自体電源電圧からして一杯一杯であり、要はこの辺が出力限界。



・その際の2段目差動アンプの電流値が中央、終段プッシュプルドライバーの電流値が上だが、2段目差動アンプはA級範囲で問題ない。



・終段プッシュプルドライバーは変な形になっている。こちらはアイドリング電流が2.4mA程度なのでA級動作範囲を超えてB級に移行している。が、プッシュプルなのでB級に移行しても支障はない。NFBアンプなので、出力を入力相似にするため、プッシュプルエミッタフォロアドライバーの電流がこうなって上手く所要のドライブ電圧を拵えているのだろう。



・これで良いかな。
±1.3Vp−p10kHz方形波応答を観る。



・負荷を4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、100kΩ(負荷オープン相当)とした場合のパラメトリック解析。



・下が出力波形だが、当然どの負荷でも同じ応答。



・上はその場合の2SK70パラの合計ドレイン電流波形(ピンク)と2SJ20パラの合計ドレイン電流波形(赤)。どちらも電流値が大きい方から負荷が4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、100kΩの場合。



・いずれもオーバーシュートもアンダーシュートもなく綺麗な応答波形。






・この辺のピーク電圧、ピーク電流の正弦波出力なら、8Ω負荷で50W程度、4Ω負荷で100W程度の出力となる。



・2SJ20と2SK70のIdMAXは10Aだが、4Ω負荷対応を考えた場合終段はパラが良さ気。
・これは、下の図がこの場合の終段プッシュプルエミッタフォロアドライバーのQ7、Q9、Q1、Q2のコレクタ電流の推移。上の図がその際に終段2SK70と2SJ20のゲートに向けて流れる電流。



下の図で、方形波の立ち上がり、立下り時に、プッシュプルの上側と下側のトランジスタに急激なパルス電流が流れている。プラス側にもマイナス側にも求められる電流を供給できるのがプッシュプル。



・上の図で、同じタイミングで2SK70と2SJ20のゲートに向けてほぼ同量のパルス電流が流れている。



・すなわち、これが終段2SK70と2SJ20の入力容量等の充放電電流かな。



・そして、2SJ20側のピーク電流値(I(R28))が2SK70側(I(R29))より大きいのは、2SJ20の方が入力容量等が大きいからかな。
・パワーIVC動作時の方形波応答を観る。



・入力は±3mAp−p10kHz方形波応答。



・同じく負荷を4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ωとした場合のパラメトリック解析。



・結果はほぼ同じだが、多少のオーバーシュートとアンダーシュートがある。



・その原因は初段J1のゲート抵抗なのはこれまで作ったパワーアンプ兼パワーIVCと同じで、そのゲート抵抗を短絡すれば方形波応答は上のパワーアンプ動作での方形波応答と全く同じになる。
・電流注入法で出力インピーダンスを観る。



・低域で7mΩ、100kHzでも77mΩ。



・三極管特性でそもそも出力インピーダンスが小さい上にソースフォロア動作で100%帰還が掛り、さらにオーバーオール負帰還が40dB程度掛かっているからここまで小さくなるということかな。



・8Ω負荷ならダンピングファクターは低域で1,143。
・歪率を観る。



・なかなか低歪率。



・1Khzと10kHzで見れば、歪率0.1%以下で8Ω負荷では64W、4Ω負荷では128W、歪率1%以下を可とすれば8Ω負荷では70W、4Ω負荷では140Wの出力が得られるようだ。



・100kHzではそうはいかず、1kHzや10kHzの概ね10倍程度、8Ω負荷では低出力時は10倍以上の歪率となっている。100kHzのループゲイン≒NFB量は10kHz以下の周波数より概ね15dB小さい、即ち概ね1/6なので、歪率が概ね6倍になるのが理屈だが、概ね10倍というのは余り良くない結果だ。が、1%以下を可とすれば、100kHzでも8Ω負荷で70W、4Ω負荷で128Wの出力が得られるようだ。



・ホント?



・シミュレーションだから信じてはいけない。



・なお、パワーIVC動作時の歪率をシミュレーション測定していない。これまでの経験からパワーアンプ動作時と同じと分かっているから。
  
・と、シミュレーションで遊んでいるうちに、本体が出来上がってきた。
・電源部。



・ケースはタカチのOS115−26−33BB。



・大容量電解コンが長いためケースに縦に収まらない。ので、背面パネルに取り付けて横倒し。
・トランスは(株)フェニックスにRA400仕様で特注。






・整流ダイオードは、ジャンクボックスに眠っていたGIのRGBPC2504を低電圧側に、日本インター(京セラ鰍ノ合併されているよう。)の31DF2を高電圧側に起用。生きているうちにこの世に蘇らせる。






・大容量ケミコンは日本ケミコンの大型ねじ端子型KMHを新調。

・回路はこう。

・アンプ部はシミュレーションの通り。

・だが、現物の素子に合わせてバイアス発生回路を修正。

・終段プッシュプルドライバーの2SA606と2SC959が、SPICEモデルより電流が流れやすいので、バイアス回路の15Ωを撤去。

・終段2SJ20Aと2SK70Aは、SPICEモデルより電流が流れやすい、すなわち、所定のアイドリング電流値にするためのバイアス電圧が大きいので、D7、D8のツェナーダイオードを変更。また、左右チャンネルに振り分けた2SJ20Aと2SK70Aの所要バイアスに合わせて、左右チャンネルでバイアス回路も微調整。

・これで終段のアイドリング電流をトータル400mAに調整。



・電源の電流制限は10.5A程度。

・8Ω負荷に70W出力するために必要な最大電流は4.183A、4Ω負荷に140W出力するために必要な最大電流は8.367Aであるので、十分な制限電流値設定。

・逆に、SIT2SJ20A,2SK70AのIdmaxは10A、パラで20Aなので、素子の安全的にも大きすぎない適切な制限電流値だろう。

・アンプ部のケースはタカチのOS115−32−33BX。



・放熱器は、フレックスのTF1310A2をジャンクボックスからこの世に引き上げて使う。



・懐かしい。昔のA級50WやA級30WDCパワーアンプ時代から使われた放熱器だ。



・TO-3型のトランジスタを取り付けるにはやはりこの放熱器の方が相応しい。し、楽。が、今やフレックスというメーカーすらないもよう。無常。



・放熱器に取り付けた2SJ20Aと2SK70Aだが、その電極配置はSONYの2SJ18、2SK60と同じだ。裏側からみて二本の端子が上側になるようにして、向かって左側がゲート、右側がソース、そしてケースがドレイン。



・その良否の簡易測定法としては、ゲート−ソース間、ゲート−ドレイン間がダイオード特性、ソースドレイン間は短絡と、ソースドレイン間以外はトランジスタと同じ。



・で、2個のTF1310A2の中央で放熱フィンを重ねて、放熱器の上下に、ケースの前後パネルのフランジに取り付けるための1.5mm厚15mm×15mmのL字アングルを取り付ける。




TF1310A2のフィンを重ねるのは、種々ぎりぎりに収めるため。



・写真の中央がへこんでいるように見えるが、カメラのレンズのせい。



・放熱器は、フィンの長い方を外側にし、その外側に終段素子を取り付ける。


・放熱器内側に取り付けたL字アングルを活用して、同じくL字アングルの梁を渡してアンプ基板を吊り下げる構造とする。







・OS115−32−33BXの支柱の上下のL字金具の短い方を、TF1310A2の外側のフィンの間あたりに設置し、支柱の前後をOS115−32−33BXの前後連結バーでつなぐ。






OS115−32−33BXの側板は使用しない。


・で、前後のパネルを、差し込むように取り付ける。


・と、諸々ギリギリに収まる。


・ように現物合わせでL字アングルをカットし、穴あけ等の作業をすると、諸々ギリギリに収まる。



支柱を内側に移すかつてのK式の手法は、天板、底板もカットしなければならず素人には無理。


・また、支柱にタップを切って放熱器を取り付ける手法も、このケースと放熱器の組み合わせでは1mmの差で不可能。


で、こう。

・裏返して基板を取り付け、所要の調整をしつつ配線作業をし、出来上がり。
・放熱器もそれなりにサイドに落ち着く。
・過電流保護回路とアンプ出力DC保護回路はK式から借用。



・保護回路等基板は、BATTERY DRIVE 電流入力パワーIVCからリユースして、所要の定数変更の他、バッテリー電圧検出部を撤去して過電流検出部を新設。
・アンプ部基板。



・白のジャンパーは調整作業で撤去した15Ωの跡。
     
・音はどうか。



・既存アンプ群の前に並べて、



・早速音出し。
・良いですなぁ。






・45年前に純オーディオ用として作られたSIT(V−FET)、2SJ20A、2SK70A。













素晴らしい。

















   
・気分を良くして、ちょっと話題の昔のアイドルを検索。



・ハイレゾでヒット。



・音良し。



・声は素直で素朴でリアル。




2019年11月8日








見直し




・SIT(V−FET) 2SJ20A−2SK70A パワーアンプ兼パワーIVC。

・作ったばかりだが、アンプの回路を見直した。

・こう。




・要すれば不完全対称型にしたもの。



終段のプッシュプルドライバーのバイアス回路を2段目差動アンプ出力経路内に入れ、合わせて、15kΩを電源側から出力側に変更する。と、そうなる。



この場合、15kΩをアースに落とせばG.O.A.となる。が、音的に完全対称型と同様、のような気がする不完全対称型とする。



・こうするとオープンゲインが少しく大きくなる。ので、初段を2SK117BLから2SK30ATMGRに変更。



・また、終段のプッシュプルドライバー、2SA606−2SC959は、やはり耐圧的に心配(Vceo=80V)なので、この際、MOS−FETの2SJ792SK215に変更。



・等々。

そのゲイン-周波数特性を観る。

・この定数で、終段2SJ20と2SK70のアイドリング電流は、それぞれ200mA、トータル400mA程度となっている。
 
・負荷を4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、100kΩ(負荷オープン相当)としたパラメトリック解析。

・赤のオープンゲインは負荷4Ω時66.8dB、8Ω時70.4dB、16Ω時73dB、32Ω時74.6dB、64Ω時75.5dB、100kΩ時76.6dB。緑のクローズドゲインは26.8dB。青のループゲインは負荷4Ω時40.0dB、8Ω時43.6dB、16Ω時46.1dB、32Ω時47.7dB、64Ω時48.6dB、100kΩ時49.7dB。

・負荷抵抗値に比例してオープンゲインが増加するのが理想的完全対称型で、不完全対称型も理想的にはそうなる。が、出力素子が三極管特性で、その出力インピーダンスが低いので、理想的にはならず、オープンゲインの増加は負荷には比例せず、やや小さい。

・これは、V−FET(SIT)完全対称型パワーアンプ兼パワーIVCも同じ。ここは終段素子に出力インピーダンスの大きいTRやMOS−FETを用いた場合と異なるところ。だが、これでもK式でいうモーショナルフィードバックはそれなりにかかるので、全域で溌剌とし体を揺さぶるピークの伸び感で、実在感に優れる、という特徴は得られる。ような気がする。

・初段を従前型の2SK117にするとオープンゲインは10dB強大きくなり、位相補正も20pF〜30pF必要になる。が、2SK30Aでは従前型よりオープンゲインがやや大きくなったのに位相補正は5pFでも可。なのでその倍の10pFとする。なお、差動の左側の位相補正Cは特段効果がないようなので撤去。

・パワーIVC動作時のゲイン-周波数特性は、これまでの経験から、これと同じと考えられるので、ミドルブルック法による測定は省略。

1.4Vp−p10kHz正弦波を入力し、各部の動作を観る。

・従前型では1.5Vp−p10kHz正弦波を入力したが、こちらは終段のプッシュプルドライバーのバイアス回路を2段目差動アンプ出力経路内に入れたので、出力可能振幅が多少小さくなったため、入力は1.4Vp−p10kHz正弦波で限界。
  
・負荷を4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、100kΩ(負荷オープン相当)とした場合のパラメトリック解析。いずれも振幅が大きい方から4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、100kΩの場合。

・一番下が出力電位(緑)と終段2SJ20側のQ15のコレクタ電位(青)そして2SK70側のQ12のコレクタ電位(赤)。Q15のコレクタ電位(青)とQ12のコレクタ電位(赤)が4Ω負荷では出力電位をややオーバーしており、この辺が出力限界。また、その電位は±50Vに何とか収まっているが、±55Vの電源電圧からもこれで限界だろう。

・下から2番目が終段2SJ20のパラのドレイン電流値(ピンク)と2SK70のパラのドレイン電流値(青)。

・上から2番目が、その際の2段目差動アンプQ4、Q5の電流値とカレントミラーQ12の電流値。2段目差動アンプは勿論A級範囲で問題ない。が、何故か三角波に近づいている。また、従前型に比して振幅が小さくなっている。

・振幅が小さいのは、不完全対称型となって2段目差動アンプの負荷が大きくなったためだが、三角波に近づいたのは、出力を入力相似とするため、NFBの作用で伝達途中の信号形状がこのように拵えられたものだろう。

・一番上が、終段プッシュプルドライバーの電流値。

・終段プッシュプルドライバーの電流推移は、振幅は小さいが、トランジスタの従前型の場合と同様、正弦波からは大分外れている。これも、出力を入力相似とするため、NFBの作用で信号電流形状がこのように拵えられたものだろう。

・なお、各MOS−FETのアイドリング電流は8mA程度となっているが、これは用いたSpiceモデルが低バイアスから電流が流れやすいものであるせい。実機に使用した2SJ79と2SK215は、この状態で電流値は半分以下。と、丁度良い。

・±1.3Vp−p10kHz方形波応答を観る。

・負荷を4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、100kΩ(負荷オープン相当)とした場合のパラメトリック解析。

・一番下が出力波形だが、当然どの負荷でも同じ応答。

・下から2番目はその場合の2SK70パラの合計ドレイン電流波形(ピンク)と2SJ20パラの合計ドレイン電流波形(赤)。どちらも電流値が大きい方から負荷が4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、100kΩの場合。

・いずれもオーバーシュートもアンダーシュートもなく綺麗な応答波形。


・上から2番目の図が、この場合の終段プッシュプルソースフォロアドライバーのM1、M3、M2、M4のドレイン電流の推移。一番上の図がその際に終段2SK70と2SJ20のゲートに向けて流れる電流。

上から2番目の図で、方形波の立ち上がり、立下り時に、プッシュプルの上側と下側のMOS−FETに急激なパルス電流が流れている。プラス側にもマイナス側にも求められる電流を供給できるのがプッシュプル。なのはトランジスタで組んでもMOS−FETで組んでも同じ。

・一番上の図で、同じタイミングで2SK70と2SJ20のゲートに向けてほぼ同量のパルス電流が流れている。

・すなわち、これが終段2SK70と2SJ20の入力容量等の充放電電流。

・2SJ20側のピーク電流値(I(R26))が2SK70側(I(R27))より大きいのは、2SJ20の方が入力容量等が大きいから。

・と、従前型に同じ。

・パワーIVC動作時の方形波応答を観る。

・入力は±3mAp−p10kHz方形波。

負荷を4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、100kΩ(負荷オープン相当)とした場合のパラメトリック解析。



・結果はほぼ同じだが、一番下の図の出力波形、下から2番目の図の2SK70の合計ドレイン電流波形と2SJ20の合計ドレイン電流波形の立ち上がりと立下りに多少のオーバーシュートとアンダーシュートがある。



・その原因は初段J1のゲート抵抗なのはこれまで作ったパワーアンプ兼パワーIVCと同じで、そのゲート抵抗を短絡すれば方形波応答は上のパワーアンプ動作での方形波応答と全く同じになる。



・上から2番目の図がこの場合の終段プッシュプルソースフォロアドライバーのM1、M3、M2、M4のドレイン電流の推移。一番上の図がその際に終段2SK70と2SJ20のゲートに向けて流れる電流。



上から2番目の図で、方形波の立ち上がり、立下り時に、プッシュプルの上側と下側のMOS−FETに急激なパルス電流が流れている。



・また、一番上の図で、同じタイミングで2SK70と2SJ20のゲートに向けてほぼ同量のパルス電流が流れている。



・この辺は、パワーアンプ動作時と同じ。

・電流注入法で出力インピーダンスを観る。

  
・低域で27mΩ、100kHzでは140mΩ。



・従前型は、低域で7mΩ、100kHzで77mΩだったので、不完全対称型にしたことで、出力インピーダンスがやや大きくなった。



・が、これでも随分と小さい。

・歪率を観る。

  
・これからすると、1KHzと10kHzで見れば、歪率0.1%以下で8Ω負荷では55W、4Ω負荷では110W、歪率1%以下を可とすれば8Ω負荷では70W、4Ω負荷では140W弱の出力が得られるようだ。


・100kHzについては流石にそうはいかず、概ねその10倍程度の歪率になっている。100kHzのループゲイン≒NFB量は10kHz以下の周波数より概ね20dB小さい、即ち概ね1/10なので、歪率が概ね10倍になるのは理屈どおり。が、1%以下を可とすれば、100kHzでも8Ω負荷で64W、4Ω負荷で120Wの出力が得られるようだ。


・従前型より最大出力が小さくなった。のは、終段のプッシュプルドライバーのバイアス回路を2段目差動アンプ出力経路内に入れたことにより、ドライバーの振幅可能電圧範囲が狭くなったため。


・これを解決するには前段の電源電圧をさらに高くする必要があるが、我が環境では最大出力は十二分なので、これで良い。


・さらに、実機に用いた2SJ20Aと2SK70Aは、SPICE MODELよりバイアスが深いので、実機の最大出力はもう少し小さいだろう。が、それでも最大出力は十二分。


・また、従前型に比べると、全般的に歪率は多少悪い。が、十分。


・シミュレーションだからそもそも信じてはいけない。


・なお、パワーIVC動作時の歪率をシミュレーション測定していない。これまでの経験からパワーアンプ動作時と同じと分かっているから。
     

・あわせて、電源部も見直した。

SIT(V-FET)はバイアスが深く、バイアスが浅くなるほどドレイン電流が流れる性質なので、アンプ終段用の±35V電源は、電源スイッチオフとともに、前段±55V電源以上に速やかに電圧が下がる必要がある。

・この点について、終段のアイドリング電流がトータル800mAあるので、これで速やかに電解コンデンサーのチャージが抜かれ大丈夫だろうと思って、アリバイ的に35V電源の±それぞれに3.6kΩのブリーダ抵抗を入れておいた。のだが、やはり甘かった。

・従前型も見直し後も、電源スイッチをオフにすると、数秒後に出力に0.6V以上のDC電圧が現われ、スピーカーからのボッという音とともに、保護回路が働いてしまう、という状況だ。

・で、対策だが、ブリーダ抵抗値を小さくするのは、常時ブリーダ抵抗に電流が食われるので、嬉しくない。

・ので、電源スイッチをNKKのS-1Aから2極双投のS−332−Jに変更し、2極のオン、オフを相反で使用し、電源オン時はブリーダ抵抗は切り離され、電源オフでブリーダ抵抗が接続され、速やかにチャージを放電するものとした。

・結果、上々。
 

・早速、音出し。
  
・昔聴いたわけではない。



・が、ハイレゾリミックス、聴いてみる。



・クッキリ、ハッキリ。



・驚くね。
・アラカンの彼女。今も頑張っているんだ。



・当時と変わらぬ歌声。



・参るね。
・その昔、MJでも試聴用ソースであったことがあった。勿論レコードが。



・今聴けばそんなに大したことはない。



・が、やはりなかなかに良いね。
・寒くなって、最早これを聴く季節。



・空気間、実在感。



・ホールに座って聴いているよう。



・素晴らしい。
・ので、次から次へと。



・定額サブスクハイレゾストリーミングなので、いくらでも。



・これはハイレゾではなくCD品質。44.1kHz/16bit。



・関係ないね。



・素晴らしい。

・で、音は従前型と比べてどうなのか?

・まぁ、そんなに違わないとは思うが。

・やはりこの不完全対称型の方が良いような。

・気がする。


・元に戻すのも大変だから、そうでないと困るのよ。
(爆)




2019年11月23日







メンテナンス



・2段目差動アンプ動作電流は実測でトータル8mA程度。設計通り。



・そのカスコードアンプのTR6、2SA606のコレクタ側のツェナーダイオードD4は、そのコレクターエミッタ間電圧を絶対最大定格の80V以内に抑え、合わせてその損失を絶対最大定格の700mWは勿論、ディレーティングを考慮してその1/2〜1/3に抑えるためのもの。



・この際、それを1/2W33VのHZ33から1W56VのRD56F−Bに交換。



・損失を更にツェナーダイオードに負わせ、TR6の損失をTR7程度として、一層の長期安定動作を図る。



・なお、AC電源部の±55V出力にブリーダ抵抗12kΩを加えた。±55V電源を使用しないTR 2SA1007A−2SC2337A パワーアンプ兼パワーIVCでもこの電源部を使用するが、その際は、使用しない±55V電源は電源オフ後も長時間にわたって電圧が下がらないため、何かの折には危険なので。
 

・PrimeSeatは音がぴか一。

・聴ける曲が少ないのが残念だが、タダなのでしょうがない。




2020年8月1日











メンテナンスその2




・特段のメンテ項目もないが、この際、オシロで位相補正の効果でもStudyしてみる。

  10pF 横軸20uS/div、縦軸下は0.05V/div、上は1V/div
・位相補正10pFの現状の場合。



・先ずは10kHz方形波応答。



・下が入力波形で上が出力波形。



・輝線に何かまとわりついているが、観測環境のせいなのでそれは無視。



・出力波形には、立上り時のオーバーシュートと立下り時のアンダーシュートが出ている。
  10pF 横軸2uS/div、縦軸下は0.05V/div、上は1V/div
・100kHz方形波応答。



・下が入力波形で上が出力波形。



・出力波形に、立上り時のオーバーシュートと立下り時のアンダーシュートが出て、それが折り返して僅かにリンギングになっている。



・いにしえの教本では、この場合のようにオーバーシュートが1波程度あるように調整するのが妥当であるとされていた。



・その場合、NFB抵抗の下図で言えばR6の8.2kΩに5pF程度のCをパラにすればオーバーシュートは消えるが、音はつまらなくなる。と、解説されていた。



・この方形波応答は、信者の鏡のような設定の結果だ。(爆)

・LTspiceで100kHz方形波応答を占う。



・出力には100kΩ(負荷オープン相当)を繋いである。



なお、Q2SA606のモデルは見直してある。
・100kHz方形波応答。



・下が入力波形で上が出力波形。



・出力波形に、立上り時のオーバーシュートと立下り時のアンダーシュートが出て、それが折り返して僅かにリンギングになっている。



・上手く、実機での方形波応答に近い応答が得られた。
・この回路でも、NFB抵抗のR6、8.2kΩに5pFをパラにすればオーバーシュートは消えるか、占ってみる。
・見事に消えた。



・が、オーバーシュートは消えるが、音はつまらなくなる。と言われてしまうと、困ってしまう。



・ので、信者としては、頑なに教えを守ってしまう訳だが、



・つまらなくなるのは、NFB抵抗にCをパラにしたことによるのではないのか?




・NFB抵抗にCをパラにするのではなく、そもそもの位相補正容量を多少増やしてオーバーシュートやアンダーシュートが出ないようにするのは、良いのではないか?
と、勝手なことを考え、位相補正の10pFに5pFをパラにして、15pFの位相補正にしてみる。
15pF 横軸20uS/div、縦軸下は0.05V/div、上は1V/div
・位相補正15pF。



・10kHz方形波応答。



・下が入力波形で上が出力波形。



・出力波形のオーバーシュート、アンダーシュートは消えた。
15pF 横軸2uS/div、縦軸下は0.05V/div、上は1V/div
・100kHz方形波応答。



・下が入力波形で上が出力波形。



・オーバーシュートもアンダーシュートもリンギングもない良好な方形波応答。



・ちょっと良くなり過ぎた?
・次に位相補正を15pFにしてLTspaceで方形波応答を観る。
・こちらも上手く、実機での方形波応答に近い応答が得られた。



・モデルパラメータはこれで良いかな。
・実は、LTspiceのモデルパラメータさえ適切であれば、方形波応答を観なくても、適切な位相補正容量を決めることが出来る。



・右は、位相補正容量を10pF,15pF,20pFとした場合の周波数特性のパラメトリック解析。



・負荷は8Ω。
・結果。


・赤がオープンゲイン、青がループゲイン≒NFB量、緑がクローズドゲイン。いずれも上の高周波特性が良い方から、位相補正C=10pF、15pF、20pFの場合。


・緑のクローズドゲインの1MHz付近を観ると明らかだが、C=10pFでは1MHz付近で僅かにゲインが盛り上がっていることが分かる。


・これが10kHz方形波応答や100kHz方形波でオーバーシュート、アンダーシュートが生じる原因である。


・その下のC=15pFと20pFの場合は、ピークはなく、素直に下降しているので、オーバーシュート、アンダーシュートは生じない。


・また、位相補正容量が大きいほどクローズドゲインはより低域から減少するので、100kHz方形波応答では、容量が大きいほど立上り、立下りのスピードが遅くなるとともに、立上り、立下りの角が丸くなる。


・パラメータの適切なモデルが得られれば苦労は無いのだが、K式で用いられるような古い素子のモデルは手に入らないので、
実機で方形波応答を観ることも必要になる。

・が、オープンゲインとループゲイイン≒NFB量は、グラフを観れば分かる通り、位相補正Cが大きくなるほど高域でのゲインが小さくなる。

・端的には位相補正Cが大きくなるほどに、高域でのNFB量が小さくなる。

・これが嫌な場合は、方形波応答に多少のオーバーシュートやアンダーシュートがあっても、発振する訳でもないので、多少のオーバーシュートやアンダーシュートは許容して、このアンプであれば、位相補正を10pFにして、1kHz以上の領域のNFB量をより大きいものにする、という選択肢もありうる。したがって、耳の優れた人は、音を聴いて位相補正Cの容量を決めると言うことになるのだろう。
  
・私は、耳は良くないので、LTspiceと実機の方形波応答で、もう少しギリギリを狙ってみよう。


・位相補正容量13pFではどうか。
・1MHz付近にピークはなく、なだらかに下降している。



・良いのではなかろうか。
・位相補正13pFでの100kHz方形波応答を占う。
・良いね。



・ギリギリオーバーシュートもアンダーシュートも出ないところに収まったようだ。



・これなら最良かも知れない。
・実機の位相補正を13pFにして方形波応答を観る。
13pF 横軸20uS/div、縦軸下は0.05V/div、上は1V/div
・先ずは10kHz方形波応答。



・下が入力波形で上が出力波形。




・出力波形にはオーバーシュートもアンダーシュートもない。
13pF 横軸2uS/div、縦軸下は0.05V/div、上は1V/div
・100kHz方形波応答。



・下が入力波形で上が出力波形。



・オーバーシュートもアンダーシュートもリンギングもない良好な方形波応答。



・LTspiceの占い結果にそっくりだ。



・位相補正は13pFにしよう。
13pF 横軸20uS/div、縦軸下は0.05V/div、上は1V/div 負荷8Ω
・参考まで8Ω抵抗を負荷にした場合の10kHz方形波応答。



・下が入力波形で上が出力波形。



・立上りと立下りのオーバーシュートとアンダーシュートはないが、リンギングのような波形の乱れがある。



・不思議なことに、入力波形にも同様の乱れがある。



・観測環境が良くないのかも知れない。
13pF 横軸2uS/div、縦軸下は0.05V/div、上は1V/div 負荷8Ω
・同じく8Ω抵抗を負荷にした場合の100kHz方形波。



・下が入力波形で上が出力波形。



・オーバーシュートとアンダーシュートはないが、波形が乱れている。



・不思議なことに、入力波形にもおかしな乱れがある。



・観測の仕方が悪いのだろう。
     

・と言う訳で、位相補正は13pFとする。

・よって全回路図はこう。

・位相補正が13pFになっただけ。

   
・位相補正を10pFから13pFに変えて、音は変わるだろうか?
・それによる音の変化を感じ取れる鋭敏な耳があれば良かったのだが、ない。






・変わらず良い音。






・私にとっては、位相補正は10pFでも13pFでも15pFでも良い。






・という、つまらない結論になった。(爆)
     



2023年11月17日